In Rechet Baan ! J.ヴィッヒェルス Johan Wichers (1887-1956)
-Introduction-
高まり続けるワクワク感…。それとはうらはらに、客席のライトが落ちたと思ったら、あっけないほど直ぐに緞帳は上がってしまう。そして、眩いステージの光景が目に入るや否や、輝かしいマーチが始まった!
するとさっきまでの ”ワクワク” が ”ウキウキ” へと切り替わり、私はあっという間に音楽に吸い込まれていく-。
生まれて初めて聴く「コンサート」-。
小学生まで音楽に興味がなく、中学校に上がってから吹奏楽部の Trombone で音楽教育を受けた私にとってのそれは、やはり吹奏楽だった。1977年冬、兄の在籍する大学バンドの定期演奏会を福岡まで聴きに来ていた私は中学1年生であった。
そしてその記念すべき第1曲こそが、行進曲 「真っ直ぐな道を」 であった。
■作曲者
ヨハン・ヴィッヒェルス※1 は ”オランダのマーチ王” と称される作曲家。
ドイツに生まれ、ドイツ軍楽隊の在籍経験もあるヴィッヒェルスは、第一次世界大戦後にオランダに移住し、そこから作曲家としての活動を本格化させたのだという。
最初のマーチを作曲したのは1928年=41歳の時であり、以来生涯で69曲に及ぶマーチを遺している。
代表作として 「メディチ」( Mars der Medici:医師の行進曲 ) 「ご無事で !」 ( Gluck Auf !)
などが知られるが、”癒し系マーチ”とも評される※2 その作風は、純朴さや豊かなスケール感のある悠々としたもので、独特の個性を持っている。
※1 Wichersの日本語表記
これが定まっていない。「ウィヒェルス」「ウィッヘルス」の他、「ウィチャーズ」との英語的発音表記もあるが、オランダで実際にはどのように発音されているかが不明なのである。(蘭日辞典から推定すれば「ヴィクサーズ」もあり得るか。)本稿では「MBレコード」の渡辺オーナーが使用されている「ヴィッヒェルス」を採った。
また ”In Rechet Baan !” の標題邦訳もまちまちで、「まっすぐに」 「真っ直ぐな道で」 「真っ直ぐな道に」 などがあり、このことは音源検索などの足枷ともなっている。
※2 参考・出典サイト :「JO-JO マーチの夢。」
本邦で唯一、ヴィッヒェルスについて詳しい記述のあるサイトでスーザ、ブランケンブルクについても詳述があったが、現在は閉鎖され後継のサイトも発見できず。”マーチ” とその魅力について幅広く触れられ、管理人さんのマーチに対する熱い、暖かい想いがいっぱいに詰まったHPであっただけに読めなくなったのは残念である。
■楽曲解説
この「真っ直ぐな道を」も、ヴィッヒェルスの傑作である。
堂々としたサウンドと上向型の楽句がとてもポジティヴな印象の序奏に続き、第1マーチからして、実に悠然としてスケール豊かな音楽で始まる。
これを受け金管中低音が奏する第2マーチも実に野太く、スケールが大きい!
それでいて、どこか愛らしさにも包まれているのが、ヴィッヒェルスの素晴らしい個性であろう。
トリオでは Euphonium (+ Clarinet ) に旋律が移り、また悠々と進んでいくが、木管の応答による可愛らしいオブリガートも見逃せない。
それが小気味良く高揚して、3連符が特徴的なクライマックスのフレーズが高らかに奏される。その3連符によって高まったダイナミクスとテンションが、次の瞬間にはふわっと緩んでより幅広い音楽となるさまに、すっかり魅了されてしまう。
最後は旋律にファンファーレ風のカウンターが応酬する終結部となり、あくまで悠々たる音楽のまま曲は閉じる。
■推奨音源
アン・ポスチューマスcond.
オランダ陸軍軍楽隊
マーチ12曲を収録したヨハン・ヴィッヒェルス作品集。充実したサウンドで、悠々たるヴィッヒェルスの世界を堪能させてくれる。
尚、兄の大学バンドはこの録音より早めのテンポで演奏していたが、それはそれで溌剌として良かったなぁ…と思う。このマーチは懐の深い楽曲なのである。
【その他の所有音源】
山田 哲朗cond. 海上自衛隊東京音楽隊 ( 表記題名「まっすぐに」 )
-Epilogue-
生まれて初めて行ったコンサートで聴いて以来、その演奏のライヴ録音はあったものの、永らくそれ以外で私は 「真っ直ぐな道を」 を耳にすることができなかった。音源を求めて探し続けたがどうしても見つけられず、私は遂に 「MBレコード」※ の門を叩く。
※MBレコード:現在は通販のみ取扱 https://www5b.biglobe.ne.jp/~mbfw/
この ”軍楽隊音源の楽園” にて、渡辺オーナーに
「実際、曲名をどう発音すればいいのかも判らないんですが、大好きな曲で…。”いん・りひと・ばーん”(?) というマーチの録音を探しているんです。」
とお尋ねしたところ、何と即座に「ああ、ありますよ。」とのご返事!
「最近、CD化もされたんですよ。この曲でしょう?同内容で LP 版もあります。私はLPの音の方が好きでしてね、LP を聴ける環境をお持ちでしたら LP の方をお奨めしますが…。」
と丁寧にご説明いただいた。渡辺オーナーの仰ることはよく判り、後ろ髪を引かれる思いもあったが、直ぐにでも聴きたいので…と私は CD を選択したのだった。
-こうして大好きなこのマーチと再会できたのが、2003年頃だったと思う。
実に四半世紀ぶりであったが、これもひたすら渡辺オーナーのおかげであり、改めて心から感謝申し上げたい。
<Originally Issued on 2011.3.26. / Revised on 2024.1.15.>
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