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[音源堂コラム⑤] アニメ「鬼滅の刃」とポップス変奏曲「かぞえうた」

-Introduction-

吾峠呼世晴による漫画の傑作「鬼滅の刃」(少年ジャンプ連載 2016.2.15.-2020.5.18.)は2019年からはufotable制作でアニメ化もされ、いずれも空前のヒット作となっている。

2024年5月にはアニメ「柱稽古編」が開始し、6月30日には同編の最終回の放送を迎えた。

「鬼」の総帥にして根源である鬼舞辻無惨自らが、重い病の床にある「鬼殺隊」当主・産屋敷耀哉を密やかに急襲し両者が対峙する場面- 「鬼滅の刃」全編においても最大の見せ場の一つなのだが、そこに産屋敷耀哉の娘二人がわらべ歌を口ずさみながら紙風船で遊ぶ場面があらわれる。

この場面、鬼舞辻無惨の心中は 「この 奇妙な懐かしさ 安堵感…気色が悪い」 というものだったのだが、アニメでこの場面を視聴していた私にも、何ともいえぬ 「懐かしさ」 が込み上げてきたのである。


それは、

一つとや 一夜明ければ にぎやかで にぎやかで と歌われていたこのわらべ歌が、1978年度全日本吹奏楽コンクール課題曲C ポップス変奏曲 「かぞえうた」 (岩井 直溥) において Flugelhorn ソロが提示するメロディー (というか ”変奏” の元になった旋律) だったから…。





■46年を経て初めて知った「原曲」は、超有名な曲だった

1978年当時、中学2年生の私は ポップス変奏曲 「かぞえうた」 をコンクール大分県大会→西部(現九州)大会と演奏しており、私にとっては文字通り忘れ得ぬ曲なのだが、当時はこの曲の主題 (旋律)が何に由来しているのかは全く知らなかったし、その後もずっと知ることがなかった。日本のどこかのわらべ歌だろう、とは思っていたがそこまでである。

今回しっかり調べてみたところ、実は極めて有名な 「お正月の数え歌」 であることが判った。おそらく 「今さら説明/解説するまでもないでしょ」 というレベルの。

 【参考・出典】「ひとつとや お正月の数え歌」 HP 世界の童謡・民謡

江戸をはじめとして広く新年の時期に歌われてきたスタンダード・ナンバーのようなのだが、私の生まれ育った大分県では全く馴染みのない歌である。

そうか、当時も東京のコたちは 「ああ、あの数え歌の ”変奏曲” なんだ」 と完全に理解っていたんだなあ…と今更ながら感慨に浸っている次第である。


しかし、中学生の時分に必死で演奏したあの曲の成り立ちを、ほぼ半世紀を経てアニメで知ることになるとは…!

漫画ではその場面を読んでいたのだけれど、漫画は音がしないから全く気が付かなかった。超メジャーなアニメである「鬼滅の刃」を視てたら、突然画面から憶えのある懐かしい旋律が聴こえてきたので、私は思わず 「おおっ」 となってしまったわけなのだが…。

(図らずも大悪鬼の鬼舞辻無惨と「懐かしい」という感情を共有してしまった!苦笑) ■ポップス変奏曲 「かぞえうた」 岩井作品らしいオープニングに続いて、いよいよボサノバのリズムにのって Flugelhorn が歌い出す-課題曲なのにこのソロは ”Fake” の表記が! 実はこの作品にはテンポ設定の表示も一切なく、演奏者の自由な解釈に委ねることへ大きく踏み込んだ課題曲なのであった。

最後は景気の良いロック・アレンジになるが、そのブッ飛んだ転調にも驚かされたものだ。 この課題曲Cで臨んだ1978年のコンクール西部(現九州)大会には岩井先生ご自身が審査にお越しになっていたのだが、講評メモにて「好演である」とお褒めの言葉を下さり、とても感激した。私の吹奏楽=音楽人生の中で数少ない良い想い出の一つである。


-Epilogue-

あれだけコンクールで真剣に取り組んだ曲だったのに、元の「数え歌」のことは全く知らず、知ろうともせず…で終わってしまった。今回それが新年を寿ぐとてもハッピーな歌だったと初めて知って、些か無念に感じてしまった。

-だって、きっと岩井先生も ”このウキウキ気分の童謡を題材にしてめちゃくちゃ楽しい課題曲書いてやるぞー”って思って作曲されただろうし、この数え歌を良く知る地方の人たちは岩井先生のそんな思いや気分がごく自然に理解でき、共感できただろう。私もそんな感覚でこの曲に触れたかったなと。


もちろん音楽は背景の説明とか楽曲の由来などとは無関係に、「楽譜」を確りと理解し表現すれば必ず ”伝わる” のである(し、そうでなくてはいけない)が、もっと身近に自然にあの ”歌” の気分に溶け込めていたなら、私の気分も更にずーっと良かっただろうな…と想像してしまうのである。



                                    <Issued on 2024.7.2.>

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