バンドロジー
- hassey-ikka8
- 2023年12月7日
- 読了時間: 6分
更新日:2024年5月16日
Bandology Concert March E.オスタリング Eric Osterling (1926-2005 )
-Introduction-

”愛らしい” ”可愛らしい”
-思わず抱きしめたくなるようなキュートな魅力にあふれたマーチばかりをたくさん遺したエリック・オスタリング。
その代表作こそが「バンドロジー」である。
■作曲者

エリック・オスタリングは永く音楽教育の現場に携わった経歴の持ち主である。
ポップス感覚を取り入れたファンシーなマーチを数多く作曲し、またポピュラー音楽の易しい吹奏楽編曲もたくさん残している。
※オスタリングの生年について、音楽之友社/吹奏楽講座 新版 8 「名曲とレコード人名事典」に1906年という記述があるが、 私の所有する音源のライナーノーツ、 及びアメリカ現地の ”Ringgold Band News Fall 2006” の記載を見ても1926年が正しいものである。
アマチュア奏者の多い吹奏楽界において、演奏の実現性確保と音楽的興味の両立をギリギリまで考え抜いたのが、オスタリングその人であろう。演奏は容易なのに、音楽としての楽しさや現代的なムードを有する・・・これが如何に難しいことか。それにこだわり続けて多くの作品を残してきたのだから、常人の成せることではない。
オスタリングはそれぞれの楽曲に新鮮な個性を与えているが、共通するのは愛らしく美しい旋律、全くぶれない創作の「軸」である。 マスタング!( Mustang ! )の緊迫感に満ちたイントロダクション、ザ・ナッツメガーズ ( The Nutmeggers ) のたおやかな木管の下降系楽句、クリスタル・スター ( Crystal Star ) の得もいわれぬ透明感・・・。
メロディー・メーカーであるだけでも素晴らしいのに、旋律の魅力を生かすさまざまな創意工夫とそれを実現する手腕を尽くしたオスタリングの作品は凄く素敵なので、もっともっと演奏されてほしい。

Hal Leonard社からオスタリング作品のデモ音源集が発売されており、MP3ダウンロ-ドによる購入も可能である。彼の作品中、必ずしも有名でないものにも素敵な楽曲がたくさんあることが判っていただけるだろう。
<収録曲>
Le Sabre, March for Festive Occasion, Tidewater, Mustang !, Grand Island Parade, The Showstopper, Dorchester, Dixieland Ramble,Gateway March, Sunliner, Bluesville 他
■楽曲概説 「バンドロジー」(1963年出版) はオスタリングの作品の中でも最も人気が高いマーチであり、彼の他の作品と同様に必要とする演奏技術のグレードは抑えているにもかかわらず、チャーミングな旋律にモダンなリズムとハーモニーを織り込んだ、とても愛らしいコンサート・マーチとなっている。
題名のニュアンスは ”吹奏学 ” といったところか。
夢がぐんぐん広がって行くようなハッピーで生き生きしたイントロダクションに始まり、よくぞこれだけと…と感心させられるほど、魅力的な旋律やパッセージが次々と繰り出される。
おそらく、1955年に発表された「ブロックM ( J. H. ビリク )」の影響を受けていると思われるが、あの傑作をイメージしつつ難度も曲想も更にずっと親しみやすくするアプローチは、「バンドロジー」をまた違った個性の名作マーチへと昇華させている。
■楽曲解説

元気いっぱい、快活さに満ちつつ柔らかな高揚感を感じさせるオープニングの何とハッピーなこと!
第一旋律のモチーフに始まる序奏にカウンターで入る3連符がとても効いており、これが歯切れよくパシっとリズムにはまって演奏される※ ことで、サウンドとともに音楽はぐんぐん広がるのだ。
※残念ながら、この3連符の
”鈍い” 演奏がとても多い
この第一旋律からしてもう本当に朗らかで、実に可愛らしい!休符を効かせたこの旋律はリズミックで実にキュートなので、最初から心くすぐられてしまう。
ここでの1回目は f 、繰り返された2回目は p というダイナミクスのコントラストはまさに「ブロックM」を踏襲したスタイルと云えるだろう。 第二旋律も休符を効かせたユーモラスなものだし、

これに続く木管高音のひらひらとしたフレーズでは Flute & Piccolo の音色が映えて、また格別愛らしい。

第一旋律が再び繰り返された後に、トリオへと入る。
トリオでは Brush で繰り出されるリズミックな Snare Drum に載って、Clarinet が中低音の美しい音域で歌い、ミュートをした金管のユーモラスなバッキングがこれを彩る-。

ここもまた「ブロックM」を踏襲したスタイルには違いないが、“お洒落な美人さん” の「ブロックM」に対して、「バンドロジー」は ”カワイイを極めた美少女”という感じで、また違った魅力を発揮しているのが凄い!
そしてこのトリオの旋律でも、休符が実に効果的にその魅力を高めているのである。
シンコペーションを効かせたダンスのような中低音のユニークな楽句を挟み、

これが発展拡大したところを Cymbal の爽快な一撃で締め括り、いよいよトリオの旋律が全合奏で高らかに歌われる。
厚みを増したサウンド、ジャジーなハーモニー、楽器群の音色対比が集約することによってトリオの楽想は一層色彩鮮やかなものに変貌し、聴くものの心をウキウキと躍らせながら終盤へ向かうのである。

エンディングで中低音による3連符のオブリガートも加わった高揚は印象的なC7(9)のテンション・コードを響かせて頂点となり、これに続いて実に歯切れよくまた潔く曲を閉じる。
オブリガートやバッキングが刻々と変わり、決して飽きさせることがない。
可愛らしい旋律を繰り出してほわっとしたムードに全体を包みながら、決してそれだけで終わらない色彩の変化・・・。
「演奏は易しいが良い音楽」にするために、初めから最後まで並々ならぬ工夫が駆使されているわけで、これは奏者への愛情なしには考えられない。その愛情が、演奏者のみならず聴く者の心も暖めてくれるだろう。 ■推奨音源
推奨音源はいずれも市販のCD音源がない、アナログLPのみの音源となってしまった。

今村 能cond. 東京佼成ウインドオーケストラ
この音源もかつてLPとカセットテープで発売されただけで、今となっては入手困難だろう。ユニーク極まりない「ジャニュアリー・フェブラリー・マーチ」(D. ギリス) の唯一の音源でもあるのだが・・・。
綺麗に整いつつ、この曲の持つ魅力を発揮した素敵な演奏。

ポール・ネヴィルcond.
ロイヤル・マリーンズ・バンド
最後に原曲にはない「2拍目」が加わっているが、美しい音色はもちろんのこと、とにかくリズム感に優れた見事なマーチ演奏でウキウキとした音楽の喜びが溢れる。
さすがはロイヤル・マリーンズ!である。

ジョン・カカヴァスcond. シンフォニック・ウインズ
ややテンポにブレはあるものの、実に快活で愉しい!終盤はジャジーなハーモニーをガンガン強調している。
オスタリング作のマーチ「サンダークレスト」の唯一の収録盤でもある。
【その他の所有音源】
鈴木 孝佳cond. TADウインドシンフォニー(Live)
マロリー・トンプソンcond. ノースショア吹奏楽団 (Live)
-Epilogue-
スーザやアルフォードを始めとする「王道マーチ」は、文字通り一世を風靡した ”流行” 音楽ともなった偉大な存在だが、「マーチ」という楽曲ジャンルは幅広く、時代とともにさまざまなものを取り入れてきている。
その中でも「ブロックM」や「バンドロジー」のようにポピュラー音楽のテイストをもフィーチャーし、よりモダンな楽想を持つマーチが私は大好きだ。これまでに生まれてきた傑作マーチを愛しまた再評価を願う一方で、今また新しい世代の…また違った魅力を放ち心躍らせる、文字通り「新しい」傑作マーチの登場を私は常に待望している。
<Originally Issued on 2006.9.13. / Revised on 2017.10.15. / Further Revised on 2023.12.7.>
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