音楽祭のプレリュード A Festival Prelude
A.リード Alfred Reed ( 1921-2005 )
-Introduction-
1981年、遂にあの巨匠アルフレッド・リードがやって来た-。
この初来日を機に記念盤が録音・発売されたのだが、その2枚組LPは期待で胸をいっぱいに膨らませた私を存分に満足させてくれるものだった。
どの楽曲も素晴らしかったのだが、最も ”驚かされた” のはLive収録の「フェスティヴァル・プレリュード」である。もちろんどのような曲かは既に充分知っていた。しかし、正直その ”真価” はこのLive録音で初めて知った!
さながら天に向かって聳える建築物の如き感動的なサウンド、そして丁寧に語り尽くされた曲作りには、まさに ”目が覚めた” という感じ-それほどまでに鮮烈な名演であり、以来私はこの曲の虜になったのだ。
■楽曲概説
邦題「音楽祭のプレリュード」として広く知れわたり、リード作品の中にあって最も評価・人気ともに高い楽曲に数えられる。米国オクラホマ州で開催される音楽祭が25回目の節目を迎え、これを祝って1957年に作曲されたものだが、瞬く間に人気を集め出版前から頻繁に演奏されたというエピソードが有名である。
本邦では1970年の全日本吹奏楽コンクール課題曲 (高校・大学・職場・一般部門) に選定されたことにより知名度が一層上がったわけだが、前年 (1969年) 度までに支部大会以上だけで見ても、なんと11団体がこの「フェスティヴァル・プレリュード」を自由曲に採り上げていた※とのことで、実はそれ以前から既に人気曲であったことは間違いないであろう。
※出典:全日本吹奏楽コンクールデータベース http://www.musicabella.jp/concours/viewfree/flag:s/work:001394/
リード初期の作品であり、
「私が『フェスティヴァル・プレリュード』を書いたのは36歳のときでしたが、それ以来もっと多くのことを勉強し考え、感じ、作曲し続けても『フェスティヴァル・プレリュード』は私の作曲した曲の中ではやはりいちばんポピュラーなのですからね。」
「あれ(フェスティヴァル・プレリュード)はよい曲だと、自分でも思っていますから。」
とコメントしているように、本人も本作こそが自身の地歩を固めた最初の人気作であると認識していた。
そしてこの曲の作曲時点で既にリードは理想のサウンドを思い描き、それを実現する編成※
を用いていたのであり、以降はその確立した書法で傑作を次々と生み出していく。
※参考・出典:バンドジャーナル 1981年6月号
※65人 (以上の) 編成を想定:フルスコア所載
Picc 2 / Fl 2 / Ob 2 / Fg 2 / E♭Cl 1 / B♭Cl 12 / ACl 4 / BCl 4 /CBCl 2 / ASax 2 / TSax 1 / BSax 1 / Horn 4 / Trp 6 / Cor 4 / Trb 6 / Euph 2 / Tuba 3-4 / CB 2 / Percussion (5)
リードは「この編成でバランスを考えているので、これから編成を動かす場合はバランスを調整すること」 と例も挙げて細かく指示している。
低音楽器を中心に充実した編成であり、醸されるサウンドを緻密に設計したことが窺える。またリード自身
が言及したように「クラリネット群」「Trp.&Trb.群」「Horn群」「Cor.&Euph.&Tuba群」という異なった ”音色群” を意識し設計されていることからも、この曲の場合はソロ楽器による多彩さといった要素ではなく、 (その微妙な移ろいも含め) サウンドを如何に聴かせるか- に重点を置いたアプローチが生命線と云えよう。
■楽曲解説
「この曲は、作品全体を通じて現れる1つのメインテーマと2つのファンファーレ風の音型によって創り上げられている。第1のファンファーレ風フレーズを発展させたフローリッシュが冒頭で奏された後、金管群の合の手を挟みながら、メインテーマが木管楽器、サクソフォーン、そしてコルネットの幅広く響き渡るユニゾンによって提示される。
これに続く第2のファンファーレ音型は、全合奏によるメインテーマの再提示に向って高揚していく。力強いクライマックスを経てメインテーマが再び奏されるのだが、
今度はそれまでとはコントラストを成し、静かでレガートな変奏が木管群、ホルン、サクソフォーンの豊かでメロディックなテクスチュアにより描かれるのである。
第2のファンファーレ音型が再び奏されもう一つのクライマックスを形成した後には、第1のファンファーレによる対位法的な伴奏とともにメインテーマが式典行進曲調となって現れる。最後はメインテーマを終局にふさわしい重厚な金管群のコードで轟かせ、全曲を閉じる。」
(フルスコア所載の解説より)
冒頭(Broadly ♩=72)はシンバルの爽快な一撃とともに、金管群の華やかな音色に始まるファンファーレ。2小節目からは Trumpet+Trombone 計12本(リードの想定では各3パート×2名)によりモダンなハーモニーが鮮やかに奏される。
マルカートかつソステヌートと指示されたこのファンファーレは、明晰かつ力強くそして遠くまで響きわたる- そんなスケールの大きなイメージだ。Horn を加えて一層輝きを増し、更に低音が加わると重厚にビルドアップされたサウンドに包まれる。
ファンファーレのカウンターで重要な役割を果たす Timpani には、全曲を通じ優れた音色とダイナミックな演奏を望みたい。
続いて木管とメロー・ブラス( Cornet & Euphonium )が朗々と奏でる雄大な旋律が現れる。これが全曲を貫くメインテーマである。
金管群と打楽器のカウンターを伴いながら高揚し、Allegro non troppo(♩=120)に突入し一旦潜まるや第2のファンファーレが始まり、再び高揚していく。
三連符で上昇する Trumpet & Cornet と、反進行的に下降する低音群の絡みが実にスリリング!クライマックスでは力強く圧倒的なサウンドが充満し、輝きに満ちたシンバルの音が解き放たれる。
やがて鎮まって Meno mosso(♩=100 - 104)では一転して木管群の清冽な歌となる。憂いも含んだ優美な変奏である。
ほどなく Euphonium の奏する第2のファンファーレ・フレーズが遠く聴こえ、これがMuted Trumpet の音色につながるさまがまた心を泡立たせる。-こうした細やかなニュアンスの変化が織り成す音風景が、シンプルなこの楽曲に深みを与えているのである。
この変化を反復しクライマックスを形成した後には、実に荘厳で気品高い行進曲風の曲想
( Alla marcia ♩=120)となる。
拡大されて奏されるメインテーマに第1のファンファーレに基づくカウンターが応答し一層音楽のスケールを拡大してゆく。
高揚の頂点で第2のファンファーレが再現されコーダへ。音楽は厚みと濃さを増してまさに巨大な構築物を見上げる如き音響が充満していくのである。
最後もシャープな Timpani に続き圧倒的なサウンドが鳴り響き、スネアの刻む6連符に導かれて鮮烈に締めくくられる。
ファンファーレを主体とした小楽曲でありながら、この曲の魅力は洵に大きい。
それは新鮮さを感じさせる豊かなサウンドと、力強く雄大なスケール感に全曲が貫かれていることに尽きるだろう。
そして単にテンポが変わるだけでなく、それとともに曲想が頻繁に移ろいながら一つの大きな音楽へとまとまっていくさまが、聴く者に強く訴えてくるのである。
この曲の演奏は最初のファンファーレからして難しい。明晰さ・華やかさ・音色のスピードは示しつつ、且つ充分に音を保持して大きなフレーズで奏されなければ楽曲の魅力は伝わってこない。
【資料】作曲家・藤田玄播によるアナリーゼ (出典:バンドジャーナル「楽曲研究」)
■推奨音源
アルフレッド・リードcond.
東京佼成ウインドオーケストラ (Live)
この曲の圧倒的名演。
前述した1981年のアルフレッド・リード来日公演のLive録音であり、終盤に大きなミスがあるのは残念だが、それを差し引いても本楽曲の魅力をこれほどまでに発揮させた演奏はないと評価できる。
スピード感のある音色に明晰な発奏とスケールの大きさ、場面場面でのテンポ設定の適切さが見事。ニュアンスに富んだ名演で、まさに巨大な構築物を彷彿とさせるサウンドの充実感も他の追随を許さない。
北原 幸男cond. 大阪市音楽団
こちらも見事に適切なテンポ設定、端正な演奏で気品を感じさせる好演。
発奏の過剰な柔らかさゆえか、鮮烈さがやや不足する部分があるのは惜しい。
【その他の所有音源】
ジャック・スタンプcond. キーストン・ウインドアンサンブル
木村 吉宏cond. 広島ウインドオーケストラ
金 聖響cond. シエナウインドオーケストラ(Live)
リチャード・ウォータラーcond. 英国海兵隊合同バンド(Live)
ハンス・オーテラーcond. ドイツ空軍軍楽隊
ロジャー・スィフトcond. コールドストリームガーズ軍楽隊
大橋 幸夫cond. 国立音楽大学ブラスオルケスター
ユージン・コーポロンcond. ノーステキサス・ウインドシンフォニー
山田 一雄cond. 東京吹奏楽団
丸谷 明夫cond. なにわオーケストラル・ウインズ(Live)
菅原 茂cond. 陸上自衛隊中央音楽隊(Live)
藤岡 幸夫cond. 東京佼成ウインドオーケストラ
-Epilogue-
三連符の動きと低音の下降型が応答して、ごぉーっと盛り上がってくる第二ファンファーレのフレーズ…この部分だけでもクレシェンドとともに迫りくる感動にゾクゾク!
時代を超えた名曲であり、忘れ去られることなく永く演奏されるべき作品である。
<Originally Issued on 2014.7.3. / Revised on 2022.9.1. / Further Revised on 2023.11.3.>
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