top of page
hassey-ikka8

友愛のファンファーレと讃歌

更新日:2024年5月17日

Fanfare and Hymn of Brotherhood     J. ボクック  Jay Bocook  (1953- )


-Introduction-

ファンファーレを伴った演奏会用オープナーとして出色の出来映えの傑作である。

シンプルだが魅力的な旋律、終始安定したサウンド、佇まいの整った構成感の大変スマートな楽曲にして、陳腐さを感じさせぬモダンなムードを持っている。

華麗さのみならず爽快さをも兼ね備える曲想は、洵に得難いものである。

  ※本邦には「友愛のファンファーレと聖歌」 の訳題で紹介され現在に至るが、作曲の背景 (後述)を勘案すると

   「聖歌」より「讃歌」の方が適切と思われるので、本稿では 「友愛のファンファーレと讃歌」とした。


■作曲者および楽曲概説

作曲者ジェイ・ボクックはアメリカの作編曲家でマーチングを含めたスクールバンドの指導経験も豊富であり、Jenson Publications から多くの作品を出版して後には同社の吹奏楽出版部門の責任者も務めた人物である。


その作品からは手堅く高い手腕が感じられ、現在もバンド指導者として活躍の傍ら Hal Leonard 社の主筆作編曲者として作品を発表し続けている。

 


この「友愛のファンファーレと讃歌」は、アメリカ南部の名門リベラル・アーツ・カレッジとして高名なファーマン大学(Furman University)の音楽愛好者団体「ファイ・ミュー・アルファ・シンフォニア友愛会」からの委嘱によって作曲された。ボクックは1982年からの7年間及び2001年から現在に至るまで同大学にてバンド指導者を務めている。

本作の作曲年は明記されていないが、ボクックが最初にファーマン大学と関わりを持った1982年が有力であろう。

 

”友愛=Brotherhood”とは同友愛会の設立趣意※ にある ”brotherhood of musical students” という文言に由来するものと思われる。ボクック自身が同友愛会の全米組織の出身でもあり、その趣意に強い共感を有していたであろうことは想像に難くない。

 ※ファイ・ミュー・アルファ・シンフォニア友愛会 ( Phi Mu Alpha Sinfonia ) HP https://www.sinfonia.org/


■バンダの魅力

✔「友愛のファンファーレと讃歌」でも鮮烈な効果

本作の特徴であり楽曲に大きな魅力を加えているものとして、後半から登場する

”Antiphonal Brass” の華麗さ、壮麗さを忘れるわけにはいかない。

Trumpet × 3 & Trombone × 2 から成るこのバンダの効果は測り知れないのである。

 

バンダ(Banda)とは管弦楽団や吹奏楽団の ”別働隊” を広く指し示すものである。

オフ・ステージの Trumpet 独奏や、歌劇においてオケピットから離れ舞台上にて ”劇の一部” として奏楽する合奏体、或いは例えば O. リードの名作「メキシコの祭り」第1楽章に登場する祭楽隊なども、みな ”バンダ” である。

しかしながら、やはり何といってもバンダと云えばファンファーレ編成の金管合奏体が真っ先に思い起こされることだろう。

 

✔バンダの華、金管合奏別動隊の例

<管弦楽作品>

交響詩「ローマの松」” アッピア街道の松 ” ( O. レスピーギ )

祝典序曲 ( D. ショスタコーヴィチ )

いずれもバンダを極めて効果的に使用した例として、真っ先に挙げられる。

その劇的な絢爛豪華・壮麗さは、楽曲の最終盤においてまさに ”聴衆を酔わせる” 効果を現出している。


<吹奏楽作品>

アンティフォナーレ ( V. ネリベル ) がバンダをフィーチャーした傑作として高名。

最終盤で金管六重奏( Trumpet & Trombone 各3)のバンダが示す鮮烈な音響は「これぞネリベル!」という圧倒的な印象を与え、実に感動的である。

 

✔バンダの配置

バンダには舞台の ”つくり” や、演出によってさまざまな配置がある。

楽団本体と正面対峙するよう客席(特に2階客席)に配置する「対立配置型」もよく見られるし、ステージ後方/中空のバルコニー席あるいはひな壇最上段に配置する「正面型」、またステージの花道など片方のサイドに配置したり、ステレオ効果を狙って左右サイドに分割配置する「サイド型」など、曲によって会場によって指揮者によって、バリエーションが存在するのである。

バンダの登場は大変インパクトが強く、聴衆を興奮に導く。

即ち、バンダは純粋な音楽の観点だけでなく、当然に視覚的アピールや演劇的な要素も狙って使用されるものなのだ。

 

しかしながら、バンダを使用した場合でもやはり音楽的な説得力は充分であってほしいと私は思っている。

特に「対立配置型」はサプライズ感に富み、また上手くいけば音響の立体感や、前後から響きが充満する状況に聴衆を浸すことが大いに期待できる一方で、演奏は難しくリスクも高い。どちらかと云えば ”演出” 重視の選択と感じられる。


カッコ良い演出が生きるのも良い演奏あってのこと-。

海外オーケストラの動画を見ても、バンダにステージ後方/中空やひな壇の最上段の「正面型」配置が多いのは、その観点からすぐれて納得的と思う。


✔バンダ配置の例

佐渡 裕cond. シエナウインドオーケストラでのバンダ = ステージ後方/中空のバルコニー席での配置

祝典序曲 ( D. ショスタコーヴィチ)2006.12.22.@横浜みなとみらいホール


■楽曲解説

「友愛のファンファーレと讃歌」は2つの主要な旋律と、そのモチーフによるファンファーレから成っている。

冒頭 Allegro Maestoso(♩=108)は Trumpet と Trombone が高らかに第2主題のモチーフを奏で、これに第1主題のモチーフによるカウンターを Horn ( + Alto Sax., Alto Clarinet, Glocken ) が奏する華やかなファンファーレ。

華麗さはもちろん備えているが決して硬質でなく、美しく伸びやかでスケールの大きな音楽となっているのがとても素敵である。

 

これが静まって悠然とした Proudly(♩=80)に移り、Horn が第1主題の全貌を提示する。


これが木管楽器によって繰り返され、冒頭のファンファーレ再現を挟んで Andante con espressivo(♩=72-80)となり、今度は第2主題が木管アンサンブルに現れる。


この2つの ”讃歌” はとても美しく安寧で、加えて何とも爽やかな印象が心に刻まれるのである。


第2主題がMaestosoで一層朗々と歌われた後には、快活なAllegro(♩=144)の中間部へ。

ここでは16ビートで疾駆するスネアに木管高音 + Glocken のリズミックな動きが加わったスピード感溢れる伴奏に導かれ、Piccolo と Tuba (+ Bass Clarinet, Fagotto ) のソリで第1主題が歌いだす。


この最高音と最低音の組合せは吹奏楽でしばしば用いられる手法であるが、ユーモラスでありながら心地よいテンションがあって、耳が惹きつけられる。本作の聴かせどころの一つである。

 

Trombone(+ Tenor Sax)に旋律が移り反復すると転調し、鐘を打ち鳴らすような壮麗なサウンドの伴奏となりバンド全体が眩い輝きを発し、Maestosoとなって高揚していく。

-その高揚の彼方、Antiphonal Brass(バンダ)の響きが天から降ってくるのだ。


荘厳な金管の響きが気高く告げるのはクライマックスへの序章-。

そして押し寄せるTriumphantly(♩=92)のクライマックスはまさに誇りに満ちた凱歌そのものだ。


Antiphonal Brassからバンドへと引継がれた第1主題が旗鼓堂々と奏されるのに対峙し、Antiphonal Brass の壮麗な第2主題がクロスオーバーしてここで一体となり、心に迫る感動的な音楽で満たされるのである。


冒頭のファンファーレを再現してのちにコーダへと突入する。

 

重厚なサウンドを背景に華々しく鐘が打ち鳴らされ、金管群の鮮烈な楽句とともに最後まで緩むことなく輝きを放ち続けて曲を結ぶ。




■推奨音源

汐澤 安彦cond. 東京佼成ウインドオーケストラ

明確に設計されメリハリのきいた演奏で、この曲の魅力を存分に発揮している。

美爽な印象の好演であるが、残念なことにCD化されていない…!

 

(画像は収録アナログLP )






【その他の所有音源】

   井田 重芳cond. なにわオーケストラル・ウィンズ(Live)

   トーマス・レスリーcond. ネヴァダ大学ラスベガス校ウインドオーケストラ(Live)


-Epilogue-

吹奏楽は ”オープナー” 名曲の宝庫でもある。

センスあふれる傑作たちが永く愛奏されていくことを願う。



    <Originally Issued on 2016.7.24. / Revised on 2022.10.3. / Further Revised on 2023.11.11.>

閲覧数:144回0件のコメント

最新記事

すべて表示

Comments


bottom of page