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序曲「バラの謝肉祭」

更新日:5月17日

Carnival of Roses, Overture

             J. オリヴァドーティ   Joseph Olivadoti  (1893-1979 )


-Introduction-

1950年代から1970年代にかけ吹奏楽を経験した者にとって、ジョセフ・オリヴァドーティ (オリヴァドゥティ、オリヴァドッティ等の表記もあり) の名は間違いなく記憶に刻まれているだろう。吹奏楽のために彼が書いた (演奏会用) 序曲はいずれも若い初級バンドに好適な作品ばかりであり、当時は誰もが1度はどれかを演奏したはずのレパートリーなのである。

中でも、オリヴァドーティの代表作であり日本版楽譜も発売されていた 「バラの謝肉祭」は実に広く演奏された楽曲だ。私自身、中学時代に他校との合同練習会で初見合奏したのを皮切りに、その後冒頭の Andante 部分がこの母校で入学式や卒業式に於ける入場音楽として使用されるようになったため、随分とこの曲を演奏し親しんだ。


■作曲者オリヴァド-ティとその作品

✔人物とその作風

オリヴァドーティはイタリア移民のアメリカの作曲家だが、ホルンやサクソフォーン、クラリネットなどを学び、1920年からハロルド・バックマン率いるミリオンダラー・バンドのメンバーとして活躍した他、シカゴ交響楽団ではオーボエ奏者として活躍した音楽家である。第二次世界大戦中は海軍に応召、そののちたくさんの吹奏楽曲を著すこととなる。

 

本邦で有名な彼の楽曲は天真爛漫でファンシーな曲想にして平易なものが多く、楽器を始めて間もない低年齢層向けの「序曲」が大宗を占めている。私などはその楽曲のイメージから (オーボエというよりは)トランペットあたりを演っていた人かな?…などと勝手な思い込みをしていた次第である。

【出典・参考】

 新版吹奏楽講座8 (音楽之友社)

 Band People 1980年5月号 「オリヴァドーティ伝記記事」


✔作品

私が「バラの謝肉祭」以外に音源を所有しているオリヴァドーティ作品としては、

イシターの凱旋(Triumph of Ishtar)、 ヴェニスの休日(Venetian Holiday)、 ポンセ・デ・レオン

(Ponce de Leon)、 美しい剣士(Beau Sabreur)、

りんごの谷(Apple Valley)、 大洋の偉観(Pacific Grandeur)、 桂冠詩人(Laureate)、 アバロンの夜(Avalon Nights) を挙げることができるが、これらは1942-1956年に書かれたものだ。

いずれも ”オペラの序曲風” と評される接続曲 (メドレー) というべき楽曲で、親しみやすい通俗性を持った健康的な音楽である。



※上画像:オリヴァドーティ作品の未CD化音源を多く収録したCBS-SONY盤LP

 

ここからは私の推定に過ぎないが…おそらくオリヴァドーティは例えば ”歌劇「ザンパ」序曲” のような音楽を想定して作曲に臨んだのではないだろうか。或いはもしかすると彼の頭の中にはたくさんの空想 ( =構想 ) 上のオペレッタが渦巻いていて、そこから序曲を書き下ろしていったのかもしれないとも思う。

オリヴァドーティ作品は良くも悪くも常套的で安易、やや幼稚で散漫気味といった声があることも否定できない。しかしながら我々が認識しておかねばならないのは、おそらくオリヴァドーティが ”若いプレイヤーたちのために” これらの屈託のない序曲を “作り込んで” いったのだろうと推定されることだ。

 

✔行進曲に現れた作風の「差分」

オリヴァドーティは相当数の行進曲も書き遺していて、その作風は日本でも広く知られた「序曲」たちとはまた違ったものを持っている。明朗快活な曲想は共通でありつつも、オリヴァドーティの行進曲は確りとした骨格による形式美を示しており、幼さは影を潜めていることが判るのである。

オリヴァドーティのマーチについては Donald W. Stauffer cond. US Navy Band による作品集も出ており、以下の12曲を聴くことができる。

・Air Waves March ・Hall of Fame

・National Victors ・Scepter of Liberty

・Naval Sea Cadet Corps ・We're the Navy

・Spirit of Our Navy ・Wings of Victory

・Legionnaires on Parade ・El Cabaliero

・Tremontier ・Advancing Youth

中でも 「Naval Sea Cadet Corps」 はアメリカ海軍士官候補生部隊の公式行進曲公募にて、ヘンリー・マンシーニ他の並みいる応募作を抑え入選採用されるという栄誉に浴した記念すべき作品である。

  

これらの行進曲を聴くと、こと「序曲」の作曲にあたってオリヴァドーティは子供たちが演奏して喜ぶ- 決して退屈することなく親しめる楽曲を想起し、一直線に作り込んでいったのではないだろうか?と感じさせられてしまう。

それがバラエティに富み、場面がクルクル転換する ”優しい(易しい)” 単純明快な楽曲へ帰結したとのでは-と思えてならないのである。


■バラの謝肉祭とは…?

「バラの謝肉祭」の題名の由縁についてはどこにも見当たらず、特定の祭典との関係を確認することはできない。オリヴァドーティのご子孫から明確な資料の提供でもない限り、判明はしないものと思われる。

しかしながらカーニヴァルや祝典の楽しげなお祭り騒ぎの雰囲気は、本楽曲の曲想と共通するものであることもまた間違いないであろうから、「バラの謝肉祭」と云えるものを調べてみた。

✔ドイツのカーニヴァル「薔薇の月曜日」

「謝肉祭 (カーニヴァル)」 と 「バラ」 との関連で有名なのは、ドイツ各地で行われる ” ローズンモーンターク(=Rosenmontag、薔薇の月曜日) ”という祭典だ。

1823年にケルンで発祥し、デュッセルドルフやマインツなどに拡大していったというこのお祭りは、紙吹雪やキャンディーの降り注ぐ中で行われるパレードであり、さまざまに仮装した楽隊やダンスグループ、騎士団や巨大な紙製の像を載せたフロートなどが列を成して練り歩くもので、まさにカーニヴァルの最高潮を成すものとのことである。

 【参考・出典】

  ドイツ大使館 /ドイツ総領事館 HP  https://japan.diplo.de/ja-ja/themen/willkommen/rosenmontag/926186

  ✔米国カリフォルニア州・サンノゼでの祝典

また米国カリフォルニア州・サンノゼにて1901年5月にその名も

” Carnival of Roses ”が開催された事実がある。

 

これは当時の第25代アメリカ合衆国大統領ウイリアム・マッキンリーの栄誉を讃える祝典であった由である。

この祝典の記録にオリヴァドーティが触れた可能性はあるが、彼が生国イタリアからアメリカに渡ったのが1911年と伝わっていることから、関係性は薄いと見るのが妥当だろう。

 

【参考・出典】

 San Jose's Historic Downtown

(L. M. Gilbert&B. Johnson 著)

 






■楽曲解説

「バラの謝肉祭」もオリヴァドーティお得意のメドレー風序曲であり、5つのパートが切れ目なく現れる。

曲はAndante 4/4拍子の清らかで敬虔なコラールの序奏に始まる。

それに続く伸びやかで優しい旋律が大変印象的である。


この旋律の高揚が収まりと続いて金管楽器のファンファーレから Allegro 2/4拍子の緊張感のある短調の音楽となる。


緊迫を高めたのち勇ましい中低音の旋律にステレオタイプともいうべき Trumpet の華々しいカウンターが呼応するクライマックスとなって、これが繰返される。


やや荒ぶった曲想は徐々に落ち着きを取り戻し、全音音階の楽句による夢幻的なブリッジを挟んで Moderato 3/4拍子の安寧な音楽へと続く。ここでは中音楽器の奏するたおやかな旋律が大変美しい。


そこにシンコペーションのリズムが聴こえてきて Grandioso 9/8拍子に転じ、スケールの大きな音楽となって堂々たる歌が奏される。全曲のクライマックスである。


最後は再び Allegro 2/4拍子となり、木管楽器の快活で愛らしい旋律が存分に駆け回る。


Trumpet の伴奏や対旋律も相俟って、一層ファンシーな曲想となって Piu mossoに突入。華々しい曲想は序曲や組曲・交響曲の ”終結部” にしばしば登場する様相を呈し、文字通り「元気よく」フィナーレを迎え締めくくられる。

 

■推奨音源

渡邊 一正cond.

東京佼成ウインドオーケストラ (Live)

「バラの謝肉祭」という楽曲をこの上なく丁寧に扱い、” 自然な ” 音楽の流れと表情に帰結させた名演と思う。

あざとくはならぬようコントロールしつつ、飽きさせないよう工夫して聴かせているのが心憎い。

 

 

 

 

  

【その他の所有音源】

 フレデリック・フェネルcond. 東京佼成ウインドオーケストラ

 汐澤 安彦cond. フィルハーモニア・ウインドアンサンブル

 井町 昭cond. 大阪府音楽団

 小澤 俊朗cond. 尚美ウインドオーケストラ

 山田 一雄cond. 東京吹奏楽団

 木村 吉宏cond. フィルハーモニックウインズ大阪

 木村 吉宏cond. 広島ウインドオーケストラ

 丸谷 明夫cond. なにわオーケストラル・ウインズ(Live)

 汐澤 安彦cond. 東京吹奏楽団

 

-Epilogue-

吹奏楽コンクールの記録 (「全日本吹奏楽コンクールデータベース」) を見ると、オリヴァドーティ作品は1956年を最初に1970年まで全国大会の自由曲 (「イシターの凱旋」が多い)としても登場している。支部大会・県大会レベルで見るとやはり1960年代にピークアウトはしているものの、現在でも「バラの謝肉祭」を中心に毎年5-6団体がオリヴァドーティ作品を採り上げているという息の長い人気ぶりであり、なんと近年はまた増加傾向にある。

 

改めて今、「バラの謝肉祭」を聴いて思うことが二つ。

第一に、音楽は演奏することで演奏した者にとって特別なものとなる。そしてその演奏体験こそは極めて貴重で、その個人本人にとっても大切なものであるということ。「バラの謝肉祭」を一度も演奏することなく年齢を重ね、ここで初めて聴いたとして私は今抱いているほどの ”愛着” をこの曲に感じただろうか? -否、である。

加えてこの”愛着”こそは実に得難い、良いものなのである。

 

第二に、つくづく(歴史的にも) 吹奏楽は「メドレー好き」に過ぎるということだ。

”メドレー”という楽曲形態はバラエティに富み飽きさせない一方、中身が薄くまた根源的に音楽性を損なった形に陥りやすい。メドレーの傑作=歌劇「ザンパ」序曲ですら、聴き手はどこか落ち着かない散漫さを感じ取っているのである。

更に、ポピュラー音楽の世界でもコンサートやアルバムに於いてメドレー楽曲が多用されてはいないという事実を、そしてそれは何故なのかということを、我々は音楽的な見地から見つめ直さねばならないであろう。

メドレー(実態がメドレーである曲も含む)ばかりを安易に並べ立てたプログラムなどは、慎むべきものなのである。

 

 

     <Originally Issued on 2017.7.2. / Revised on 2022.11.23. / Further Revised on 2023.11.27.>

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